【ヨルムンガンド】女武器商人が目指した強制的な世界平和とは

世界中の紛争地帯を渡り歩く女武器商人と少年兵の冒険を描くアクション作品

ヨルムンガンド

物語終盤で判明する主人公の女武器商人「ココ・ヘクマティアル」が目指す理想の世界について解説していきます。

ココ・ヘクマティアル

ココは父親が社長を務める巨大海運企業「HCLI」の武器販売部門にて天才的な商才を発揮し多額の売り上げを誇る武器商人です。金銭で対価を支払うのであれば軍や警察はもちろん、民兵組織や反政府勢力、マフィアにまで武器の卸しを行っています。その職務上、危険地帯に赴いたり恨みを買ったりと身の危険に晒されることも多く、護衛として独自の私兵を雇い入れています。

武器を深く知り、武器で生計を立て、武器に守られた彼女ですが、武器を売る人間も、武器を使う人間も、武器そのものもすべてを憎む思想を持っています。

しかし、彼女の人生は武器から離れることを選べませんでした。武器商人として育てられ、血のなせる業か圧倒的な商才を発揮し、見る間に商品を売りさばき巨額の富を得ます。武器を憎みつつも武器から逃れられない彼女は、ある計画を思いつき実行に移します。

ヨルムンガンド:強制的な世界平和実現計画

世界で武器が使われている理由は「武器が使えるから」という結論にたどり着いた彼女は「武器を使えない世界」の構築を計画します。

この時期、HCLIは物流の支配のためにビジネスプランとしてHek.GGという次世代総合兵站・指揮通信システムパッケージを展開していました。HCLI社が構築した世界中の海上輸送網と、独自に打ち上げた126基の人工衛星による衛星測定補助システムにより軍事力の展開を安価に行うサービスです。

ココはこの仕組みを利用しようと考えます。親交のあった天才科学者「天田南」博士が開発に取り組んでいた量子コンピューターに対して全面的に支援しました。直接金銭的に援助するのはもちろん、開発に必要な技術を持つサプライヤーの支援、必要な人材の拉致など、資産、商才、武力を駆使して水面下での働きかけを行っていました。

そうして完成した量子コンピューターによって既存の情報システムに苦も無く進入することができるようになり、意のままに操ることに成功します。ココは情報世界の神となることができました。

人類が発展したのは交通網(物流)の発達に伴うものです。そしてその交通網を通じて軍事力は拡大し、世界中が戦渦に巻き込まれることになったのが人類の争いの歴史だと考えました。

HCLIが打ち上げた126基の測位衛星と量子コンピューターの存在が合わさることで、全世界の物流を停止させることが可能であり、つまりは人間の生活と軍事を切り離すという計画です。

武器があってもやがて弾薬が底をつきます。しかし補給はありません。

争いによって戦闘員が死傷します。しかし補給はありません。

争うためには敵が必要です。しかし敵を知るための情報も争いに行くための移動手段もありません。

現代に起こりうる争いの構成要素全てが各種インフラに頼っているのです。

その方策として、航空、海上、陸上すべての移動を制限します。量子コンピューターの演算能力をもってすれば既存のセキュリティシステムなど何の妨げにもなりません。悠々とシステムに侵入し運行を妨げるのもまた容易でしょう。

計画の課題

ココが短くない年月と多量の労力、資産をつぎ込んだヨルムンガンド計画は順調に進み、あとは発動するだけ状況までこぎつけました。

しかし、発動していない以上は結果は誰にとっても不明瞭なところがあります。

作中では以下の懸念が取りざたされています。

部下の離反

即時のヨルムンガンド発動により発生する人的被害は無視できず、作中では「空の封鎖」つまりは世界中での航空機の即時使用禁止による多重墜落により、乗員乗客約70万人が死亡する公算でした。また物流や交通、通信が遮断されることによりインフラが機能不全を起こすため、より多くの人命が失われることが想定されます。

計画の全容を部下(護衛チーム)に明かした時のココは、当然みんなが賛同してくれるものと思っていましたし、現に一人を除いて反対意見は出ませんでした。彼らは人当りもよく悪人ではありませんが、過酷な生活の中で通常とは異なる倫理観を持っていました。

その中にいて尚も健常ともいえる価値観を持っていたのが、ココと対をなすもう一人の主人公「ヨナ」でした。彼は少年兵として過ごした過去を持ち、ココと同様に武器や争いを憎みながらも手放して生きることのできない矛盾を抱えた少年です。

ココはヨナのそんな経歴に引かれ、自分の計画を共に果たすのにふさわしい仲間だと考えていました。

しかし、彼は過酷な人生を送りながらも、世界の優しさや人間の善性について夢を捨てきれずにいました。誰もがちょっとずつ優しい気持ちを持てば世界はもっと良くなるはずだと。

ヨナにとって第一段階の空を封鎖する「だけ」で発生する70万の人的損失は、雇い主であり苦楽を共にしたココに銃を向けてでも受け入れがたい痛みでした。

ココはヨナに対して、「自分が計画を発動しなければ近い将来に3回目の世界大戦が起こる。70万の犠牲者なんて物の数に入らないほどに人が死ぬだろう」と告げ、計画への賛意を期待しますが、彼が決断したのはココからの離反でした。

ちなみに数年のうちに世界情勢はココの予想通りになり、第三次世界大戦前夜とされるまで悪化します。直接的な戦闘と社会の崩壊により、70万人が端数になるほどに人が死んでしまったのです。


実際の効果は限定的

ココは兄のキャスパーとヨルムンガンド計画について話します。彼女の理想と理論について聞いたキャスパーは一通りの理解を示しつつも、計画の粗を指摘します。

武器商人は「死の商人」と揶揄されることがあります。彼らは求める相手に武器を売るのを生業としたビジネスマンですが、武器が売れる状況を作り出すことに対しても暗躍しています。つまり、戦場の構築もビジネスとして行うのです。

人間が集まれば思想の違いから大なり小なりの派閥ができます。その派閥は大きく敵対するものもあれば、若干の不和を残しつつも共存する場合もあるでしょう。普通に考えれば敵対している派閥間では武器は売れますが、争いになっていなければ必要とされません。

最大限の儲けを出すためには、人々の敵愾心を煽り、争いの火種を起こし、そこに武器という燃料を投下することで利益を最大化するビジネスモデルを取ることができるのです。

つまり、物流が止まっても武器商人がいる限りは争いはなくならない。

戦場は武器商人の都合で作り出せる。

銃が手に入らないならナイフを売ろう。

ナイフがだめなら棍棒を。

棍棒がだめなら石を売ろう。

こうして結局は争いはなくならないのだと、キャスパーは妹のココに告げました。

アインシュタインが述べたとされる言葉に次のようなものがあります。

第三次世界大戦でどのような武器が使われるかは分からないが、第四次世界大戦では石と木の棒が使われるだろう。

まとめ

作中ではヨルムンガンド計画が発動されるシーンを最後に物語が幕を下ろします。

武器を憎みながらも武器から逃れられないココとヨナは、結局は世界中に痛みを強いる形での独善的な世界平和を求めました。

物語が終わっているということから、計画がなければ第三次世界大戦が起きていたのか分かりませんし、計画により少しでも平和に近づいたのかも分かりません。

一個人が世界の命運を独断で決め強要するというのは受け入れがたいものがありますが、彼らのとった考えや行為には考えさせられることがあり、一概に否定できないという気持ちにさせてくれます。

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