高い難易度と深く練りこまれた設定、どうあがいても絶望な状況を描いた大人気ホラーアクションゲーム
SIREN
当時のホラーゲーム界隈とは一線を画した作風であり、その中でも顕著なのが
プレイヤーキャラクターの貧弱さです。
数発殴られれば死亡、銃で1,2発でも撃たれれば死亡、走り続ければ息切れを起こす、武器を発見しても装備できないキャラがいるなど、戦闘においては不利の極みです。
従来のホラーアクションゲームでは、多数のモンスターを相手に強力な重火器や特殊な装備を用いて、多少のダメージを気にせずゴリ押しでバッタバッタとなぎ倒すことが多かったですが、SIRENは徹底的に人間の弱さが表面化されています。
しかし、他の作品と同様、ダメージを負ったキャラクターも時間経過とともに体力が全回復します。たとえ鈍器でボコられようと、銃で撃たれようと、死なない限りは回復します。
当然ゲームであるためメタ的な事情はありますが、実はこの「体力回復」にも作中の設定が関わっているのです。
今回は、SIRENのキャラクターが体力回復する理由について解説します。
体力が回復するのは屍人化が進んでいるから。
どんなに屈強な人間でも、刃物で切り裂かれれば皮膚や筋肉が切断され、鈍器で殴られれば内出血や骨折は免れません。受けた傷が深刻であれば、時間経過で死に至ることもあります。
本作におけるプレイアブルキャラクターは上述の通り、他作品に比べたら脆弱であり、敵の待ち伏せに対して強行突破することは出来ません。また、敵が不死身であるという性質からも、時間をかけて敵を殲滅して安全に進むという手段も取れなくなっています。
この「敵が不死身」という設定が各キャラクターにも絡んできているのです。
本作における敵「屍人」は、「赤い水」と呼ばれる神の一種の血液によって人間が変異した不死身の怪人です。ダメージが蓄積するとわずかの間だけ行動が止まりますが、急速に自己修復を行い活動を再開します。
赤い水は異界化した羽生蛇村の各所に出現しており、雨としても全域に降り注いでいます。少量であっても皮膚に触れただけで屍人化は進み、一定量を取り込むことで完全に屍人に変貌するのです。
他にも、異界化した羽生蛇村で傷を負い血を流すと、同量の赤い水が体内に出現するため、全く水に触れなくとも傷を負った時点で屍人化するという超絶シビアな世界です。ちなみに例え僅かであっても赤い水が体内に入った時点で世界の理から外れてしまうため、現実世界に帰還することは不可能になるという絶望的なおまけつきです。
つまり、作中のキャラクターのほとんどすべてが赤い水に暴露しており、不完全ながらも屍人化が進んでいる状態ということです。
その結果、敵からの攻撃によって傷を負っても、普通の人間に比べて早い回復速度を誇り、死亡しない限りはどんな傷を受けても回復し通常通りの行動が可能となっているのです。
体力が回復しないキャラクターもいる。
上述の理由から、異常な回復力の正体は屍人化によるものということなのですが、本作のストーリー上、完全に赤い水に接触せずに生還したキャラクターが存在します。
それが四方田春海という小学生です。
彼女は村が異界に取り込まれてから一度も赤い水に接触しておらず、大半の時間を屋内で過ごしていました。さらに同行者によって守られていたため一度も傷を負うこともなく、赤い水が体内に入り込む余地が一切なかったのです。
因果律の固定により彼女が現世に帰還することは決まっていたため、他のキャラクターとは異なり敵と直接戦闘することはなく、接触された時点でゲームオーバーとなる唯一の存在です。
メタ的な理由
作中設定による理由付けは上記の通りですが、もちろんメタな理由も存在します。
まず、ダメージが自然に回復するのはアクションゲームにおいては基本的な要素であり、ゲームを進行するうえで回復手段がないと難易度が著しく上昇してしまいます。多くのゲームでは体力が回復する理由は特に設定されていなかったり、回復アイテムの使用という外的要因に頼っています。
次に、四方田春海においては、倫理的な理由からゲーム制作にあたって児童が傷つけられる描写を避ける傾向にあることが挙げられます。小学生女児が鉄パイプや鎌を持った怪人にボコボコにされるシーンを作ることができないというもっともな理由が存在しています。
まとめ
アクションゲームにおけるキャラクターの体力回復描写について、しっかりとした設定をもっている作品はどれくらいあるのでしょうか。
例えば似た系統のゲームのバイオハザードであれば回復アイテムとして「ハーブ」があります。受けた傷を急速に治癒させるトンデモない植物がそこらじゅうで栽培されていたり自生していることについて細かくは触れられていません。
サイレンにおいては、ほぼすべてのキャラクターが現世に帰ることができず、死してなお屍人として蘇るという絶望的な状況を土台としています。
キャラクターのダメージ回復という有り触れたシステムですら「屍人化の兆候」としてゲームシステムにうまく組み込んだ本作は傑作といわれるのも納得というわけです。
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